感染性つり熱 その3
その日もとても暑かった。
容赦なく照りつける太陽は、自分の季節が来たと張り切っており、久しぶりの釣行を頼んでもいない応援で励ましているかのようだった。
後輩を誘った居酒屋でレンタカーの予約の電話を入れ、ほぼ徹夜状態で昔の釣り仲間と後輩を連れて向かった先は懐かしの管理釣り場「吉羽園」。
みんな寝ていないにも関わらず車の中は馬鹿みたいな学生時代の話や、まだ釣れるともわかっていないバスの話で、熱したばかりのポップコーンのように弾けていた。
日も昇り始めたばかりの午前5時。吉羽園は少し冷たい空気で包まれ、これから始まる魚との戦いのお膳立てをしてくれているようだった。
タックルを持っていなかった私は、吉羽園のタックルをレンタルし、中学時代に嫌という程見たイモグラブを受け取った。
朝の5時とはいえ、既に釣り人は集まり始めていた。
そう!この始まる前のワクワク感!朝の静かな雰囲気!いつもは感じることのできない異空間に身を置くことがたまらなく好きだった。
「どこから攻めようか、朝は手前混むから奥の流れ込み付近に陣取るか」
釣行を仕切るのは吉羽園マスター。聞くと頻繁に足を運んでいるようで、釣り方も攻め方もわかってるようだった。
「任せますぜ、兄貴!」
投げては巻き、投げては巻き、何度もイモグラブはバスの目の前を通っただろう。
なかなか釣れてくれない。やはり簡単ではないな...と思っていると、竿がグッとしなった。
「来た!来たわ!」
久しぶりの感触。竿に伝わる魚の感触。釣りをしないと味わえない、なんとも形容しがたい感覚。
久しぶりに釣り上げたブラックバスは予想以上に大きかった。
「結構でかい!これでかくない?」
「でかいよ!50あるかもよ!」
「メジャーある?」
「いや、持ってない」
「なーんでよ!なーんで持ってないのよ」
詳細なサイズは残念ながらわからなかったため、足の踵を起点にどのくらい大きさか覚えておき、後々測ったところ約45cmだった。
8年ぶりに見たブラックバスは大きく見え、本当に50cmぐらいあると思えた。脳から出されたアドレナリンが魚を大きく見せたのだろう。
その後はぱたっと釣れなくなり、皆一匹、二匹という釣果で終わった。
やっぱり釣りは楽しい。もっと釣りがしたい!釣り熱は完全に身体を支配し、感染力も高めるまでに成長していたのだった...